<海外県政調査の報告>調査の記録

“干し草ホテル”に泊ってみた。

HEUHOTEL THEUERWECKL
Finkenhof 1 ,
74867 Neukirchen-Neckarkatzbach Germany
Tel: 06263 / 9732 Fax: 06263 / 428682

本当にここで寝るのか
雨に煙るホイホテル
 今回は日程の都合で、ファームステイは1泊しかできない。であれば、極端も面白か ろうと、農家の納屋をヒュッテに改装し、しかも寝床が剥き出しの干し草という「Heuhotel」(ホイホテル=干し草ホテル)に泊まることにした。
 エアバッハから南に約30km。Neckar(ネッカー)川を渡って、夕闇と雨で全容のつかめない丘陵の道をどんどん登っていく。人家も途絶え、道を間違えたかな、と思った頃に、目指していた村、Neunkirchen(ノインキルヒェン)に着いた。村の人口は3,000人だが、今夜の宿である<Heuhotel Theuerweckl>があるのは、わずか150人の集落である。

木のベンチと長テーブルのラウンジ
 ホテルを切り盛りしているのは、まだ30代のお母さん。お父さんは村役場の職員で、村に8人しかいない議員も務めている。もともと、この家に住んでいたわけではなく、州政府の保証を受けて銀行から借り入れたお金で、建物を買い、ペンションとしてスタートさせた。

 入口のドアを入ると、いきなりそこがラウンジ(食堂)だ。木のベンチと長テーブルの置かれた質素な造りだが、清潔に保たれている。
 いよいよ、寝室に案内される。2階と、さらにそこから少し階段を上がった3階(屋根裏?)がベッドルーム。2階、3階といっても壁があるわけではなく、メゾネット状の大部屋状態である。ベッド部分と廊下部分は高さ20cmほどの板で仕切られており、ベッドには干し草がこんもりと盛られている。
 今夜は、ここで枕を並べて雑魚寝である。天井が貼られていないので、屋根と壁の隙間から、夜空が覗いている。

「ホントに、ここで寝るのか」。誰かがボソッと言った。

 主人が、牛を見にいこうというので、全員でついていった。ホテルから70〜80mほど離れた牛舎には、乳牛を中心に30頭あまりの牛が飼われていた。牛舎の斜め前には、クナイプ浴(小石を敷き詰めた水槽の中を歩く健康浴法。100年以上前に、セバスチャン・クナイプ博士が考案した)のできる泉があったが、雨が降ってきたため、慌ててホテルに戻った。
 動物は、ホテルの敷地内でも飼われている。仔馬、犬、小型の豚、山羊、野うさぎ、ガチョウ、にわとりなどで、もちろん子どもたちが触れて遊ぶこともできる。

Schirk村長を囲んで記念撮影
 夕食は、主人手作りのソーセージのソテーにパンという、いたってシンプルなスタイル。
 食事の後、しばらくすると、スペインに出張のため明朝3時に村を出なくてはならないというWolfgang Schirk村長が、わざわざ息子さんの運転する車に乗って訪ねてきてくれた。ノインキルヒェンの家を描いた皿と、こちらの人数分のKirschwasser(キルシュワッサー)をお土産にいただいた。キルシュワッサーは、サクランボを原料とした焼酎のようなもの。南ドイツでは地酒として、いたるところで造られており、いただいたのもノインキルヒェンの蒸留所のものだった。
 村長は、私たちが差し上げた日本酒を「飲むのは初めて」といいながらクイッと冷やで何杯か呷り、30分ぐらいという時間を大幅にオーバーしてお帰りになった。明日の出張、だいじょうぶだろうか。

寝床は屋根裏部屋の干し草の上、思い思いのスタイルで
 さて、干し草そのものの寝心地は、なかなか快適だった。そのままでは寝られないので、借りておいた寝袋にもぐりこんだ。防寒と衛生上の効果を期待して、首から口にかけて、マフラーのようにタオルを巻く。1階のラウンジにあるストーブは一晩中、燃やしっぱなしだ。暖気が階上に溜まるせいで、寒さを感じることはなかったが、ときどき誰かが起きて、薪を補充しなければならないのが難点だ。
 朝、シャワーを使ってみた。男女共にブースは2つ しかないが、キャパシティ(満館で25〜30人)を考えれば妥当なところであろう。湯量、湯温、清潔感とも申し分のないものだった。

 私たちは夕食までお願いしたが、このような宿の場合、基本はB&B(ベッド&ブレックファスト)だ。大人1泊朝食つきで、16.90ユーロ。実は、干し草ベッドではない、普通のペンション風の部屋もあり、そちらは同じく19.40ユーロから25.40ユーロである。
 また、このような農家民宿の場合、長期滞在が基本なのだが、ホイホテルは「物は試し」という人が多いので、1泊がほとんどらしい。私たちが泊まったのは、シーズン終了間際で、他に宿泊客はいなかったが、夏休み中は満館になる日が多いという。

翌日の早朝、ホテルの家族と散歩に出かける
霧にけむるノインキルヒェンの朝
クナイプ浴のできる泉。水は冷たい