<海外県政調査の報告>

所見または提言……あとがきにかえて(3)

3.「水源」は共通理解を得られるか。
 ビュアシュタットの浄水施設の項で、水源の問題を我がこととして捉えるためには環境思想の啓蒙も必要という主旨で意見を付した。都市住民の多くは、自分がどの水系の水を飲んでいるのかさえ、知らないのではないか。
 たとえば、横浜市である。横浜の水源といえば、山梨県の道志川が有名で、道志村の水源地域の保全については市民に周知を図ろうとしているが、道志川からの一日取水量は172,800リットルと、横浜市が一日に集める水量の1割にも満たないのだ。実際は、相模湖、馬入川、酒匂川、宮ヶ瀬ダムで9割以上を占めているのである。

 上水道の7割を地下水に頼るドイツでは、地域ごとの比較的小規模な水道事業者が、その地域の水源林に対して保全事業を行ない、そのコストは料金という形で、水の利用者が負担をしている。住民が「水源」をよく理解していればこそ、の話である。これは、事業者の規模が大きくなり、水の供給地域が広くなっても変わらない、当然の理屈である。
 しかし、神奈川県のように、大きな水がめを、いくつもの事業者で共同利用している場合、保全のための負担比率も、はじき出し方が難しい。仮に、新たな水源保全事業を起こすとして、横浜市は神奈川県で溜めている水の半分を使っているのだから、コストも半分、負担せよと言ったとしたら、横浜市民は承服しないだろう。今でもすでに、横浜市の住民は、湧水や地下水を利用する秦野市民の2.5倍近い水道料金を負担しているのである(1か月に20リットル使用した場合)。
 自治体や地域によってさまざまな水源事情、料金事情を抱えている神奈川県。受益者負担が原則の水源保全コストを、はたして全県下同率の「税」という形で県民に負担させてよいものかどうか、疑問が残るのである。

 広く同率に県民から税を集めるのであれば、イメージは水と比べて漠然としてしまうが、その分「受益者」が限定されない「森林環境保全」のためという方が、まだ理解を得られるかもしれない。私たちも、津久井の森林を歩き、その荒廃ぶりを目の当たりにしている。まして、「森林の保全」は「水源環境の保全」にとどまらない。地球温暖化の防止や大気の浄化、景観保全、林業や観光の振興、土砂災害対策などにも密接に絡んでくるのである。
 しかし、ここにも問題がないわけではない。たとえば、「水源保全」と比べ課題が広がるために、その意義を理解してもらうための広報・教育活動が大掛かりになること。さらには、丹沢・大山のブナ林・モミ林の立ち枯れなどは、首都圏全域から排出された窒素化合物を含んだガスがもたらす酸性霧が原因といわれており、必ずしも神奈川県だけが原因者ではないこと。であれば、丹沢・大山の再生に要するコストを神奈川県民だけが負担することが、果たして妥当なのかどうか。
 これなどは、知事が日頃から唱えている「広域連携」なしには解決しない問題である。ぜひ、首都圏全体の問題として各都県にアピールをしていただきたいところである。