ここで質問です。人口14万人のうち、3万人が学生という町に住みたいと思いますか。
こう聞かれて積極的に「YES!」と答える人が、日本にどれほど、いるだろうか。行儀が悪い、さわがしい、ゴミ出しのルールを守らない、税金を取れない、地域社会の一員になろうとしない……。残念ながら、大人が学生を見る目は厳しいものがある。
しかし、ドイツに来てからというもの、私たちが羨望の念を禁じえない都市は、すべて学生の町である。カールスルーエ、フライブルク、そして、今日、訪れているハイデルベルク。LRTの話のときに引き合いに出した、フランスのストラスブールも同様である。これらの都市は、ドイツ人の「住みたい町ランキング」で常に上位にある。
冒頭の数字は、ハイデルベルクのものだ。この小都市には、ドイツ最古の大学がある。ハイデルベルク大学――正式名称ループレヒト・カールス大学ハイデルベルク。
1386年の設立のこの大学では、マックス・ウェーバーやカール・ヤスパースも教鞭をとっていたことがある。しかし、この町を世界的に有名にしているのは、大学だけではない。日本でも公演を行なったことがあるハイデルベルク・フィルハーモニー管弦楽団。あるいは、学生王子と下宿屋の娘の悲恋を描いたマイヤー=フェルスターの小説『アルト・ハイデルベルク』でハイデルベルクの名を知った人も多いのではないだろうか。
第二次世界大戦の戦禍を免れたこともあり、ネッカー川左岸の旧市街は、まさに古都の風情である。さらには、川岸の丘の上に建つ古城。この町が年間350万人もの人が訪れるドイツ第一の観光都市、というのもうなずける。
まさに、文化と観光の町、ハイデルベルク。今回は、市の文化局を訪ね、文化振興策について話を聞くことになっている。場所は、Haspelgasse12番地。「Sex
Shopの上だから、すぐにわかるよ」と言われていたが、まさにそのとおり。薄暗い路地に面したアパートメントの1階にその店があり、磨り減った階段を上がると、Hohenadl氏とKretzler氏が待っていてくれた。ハイデルベルクでは、大学の教室も市内に散在していると聞いた。そんなものなんだ。
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屋根裏の会議室でHohenadl氏とKretzler氏から説明を受ける
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「市の文化局がイニシアチブをとって主催をしているものは、実は多くないのです」
いきなり話の腰を折ってしまって申し訳ない、という表情でKretzler氏が言った。市の文化局は、芸術団体等に対してイベントやコラボレーションのアレンジや、アドバイスなど、コーディネーター役に回ることが多いのだという。もちろん、市として設立したオーケストラ、劇場、博物館、美術館、図書館や、芸術団体等の特別展などに資金を提供する窓口にもなっている。
市民の芸術活動に対する支援としては、さまざまなプロジェクトのうち一定の基準を満たしているものについて補助金を出すほか、新進アーティストの写真や絵画、彫刻等の作品を購入するために年間に約2万ユーロ(約2700万円)を使っている。