「公的な観光振興の効果としては、他にも雇用や交通インフラの促進や、ホテルやレストラン、伝統工芸に新風が吹き込まれるということがあります。また、多くのお客様を地域に迎えることで住民の意識が向上することも見逃せません」と、Hanneさん。観光客が喜び、地元住民が潤うというのは、観光の大原則だ。
オーデンヴァルトには、ベルリン、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、ライプチヒなどのほか、ベルギーやオランダからも観光客が訪れる。しかし、圧倒的に多いのは、フランクフルトのあるマイン州の人たちだとか。
やはり、近いということがあるのだろう。
シュヴァルツヴァルトまで行こうとすれば、入口のバーデンバーデンでも、フランクフルトから特急で1時間半はかかる。逆に、すぐ側にシュヴァルツヴァルトのあるバーデン・ヴュルテンベルク州から、わざわざオーデンヴァルトまで来る人は少ないのかもしれない。
オーデンヴァルトを訪れる人は増加傾向にある反面、昔ほど長期滞在をしなくなったという。しかし、農家や廃業農家を利用したペンションでは、相変わらず子ども連れなどの長期滞在が中心だ。シュヴァルツヴァルトに比べると地味で質素だが、その分、「分かった客」が多いらしい。エコロジーへの意識が高い30代のエグゼクティブが妻と子を連れてやってくる、といった具合だ。
農場での休暇は、のんびり、静かで、楽しそうだ。子ども連れのほとんどは車でやって来るが、鉄道で行けるところも多い。冒頭で紹介した吉永さんは、奥様とふたり、列車でオーデンヴァルトを訪れたことがある。そのとき、宿(といっても農家)の主人が駅まで迎えに来てくれたのだが、これがなんと、トラクター。ふたりで荷台に乗せてもらってトコトコと走る、その、宿までのわずかな時間が、まるで、ONからOFFへの時空移動のようであったという。車で、いきなり宿の前に乗りつけたのでは、こうはいかない。