- 調査目的
龍屋物産(株)は、昭和45年にホテル・旅館への珍味食品納入業務を主体とする営業を開始し、平成2年からはスリランカ国に現地法人を設立し、カシューナッツ及び紅茶の加工・輸出を業務とするなど海外へ事業展開している。一方、障害者雇用に積極的に取り組んでおり、平成22年7月1日現在、従業員79名中、9名の障害者を雇用しており、今後20名まで増員する方針である。障害者の家族や地域の養護学校と連携しながら、健常者と一緒に仕事ができるようにする龍屋物産(株)の社員教育方針は、生活面で障害者の自立を促すものともなっている。
龍屋物産(株)における障害者雇用の取組を調査することにより、本県の労働福祉対策に係る委員会審査の参考に資する。
- 出席者
龍屋物産(株)関係者
商工労働局長、企画調整課長、雇用対策課長
- 龍屋物産(株)の概要
ア 商号 龍屋物産株式会社
イ 所在地 伊勢原市田中803番地1
ウ 資本金 9,500万円
エ 従業員数 79名(正社員15名、パート64名)
オ 事業内容 珍味・嗜好食品の企画及び製造卸、紅茶の輸入卸
カ 主要取引先 (株)マインマート、(株)やまや、(株)帝国ホテル、(株)東横イン、
(株)キャメル珈琲、(株)成城石井、セキセー(株) 他
- 龍屋物産(株)の障害者雇用の現状について
ア 障害者雇用に取り組むことになったきっかけ
約30年前に、発達障害のある15歳の女子を従業員として雇用することとなり
、仕事のみならず、原付免許の取得や定時制高校への通学を勧める等、生活
全般についても助言してきた結果、現在では自立した生活を送っている。そ
の実績を基に、養護学校の生徒を実習生として受け入れ、現在までに自閉症
を中心とした50名以上の障害者を受け入れている。
イ 障害者雇用における実情
養護学校での3年間に一言も言葉を発しなかった者、社員の言葉をオウム返し
する者、自分の思い通りにいかないとパニックになりひっくり返る者等、自閉
症は障害の内容や程度は一人一人異なるため、障害者雇用を始めた当初におい
ては、手探りの状態で社員教育を行っていた。
その後、養護学校の教員や障害者施設の職員、家族との連携から、障害者と真
剣に向き合えば、彼らは一生懸命に仕事でこたえようと頑張ることが分かり、
現在の社員教育の方針が固まっていった。
ウ 現在の社員教育の方針
現在では、障害者各人の適性を見極め、会社に貢献するよう長所や能力を伸ば
す社員教育を行っている。健常者と同じ作業を健常者と一緒に行うようにし、
また、新しく導入した機器の操作方法を先に覚えさせ、健常者に教えるような
流れにすることで、人に頼りにされ、自信が付くという好循環を生むようにし
ている。その結果、大きく成長する可能性を持っていることから、社内では彼
らを「えいぶるさん」と呼んでいる。
さらには、家庭や養護学校、施設との連携を重視しており、従業員がその日の
仕事で学んだこと等を記載し、社員教育担当者が返事を記載する連絡ノートの
情報を共有したり、保護者参観日を設定する等を行っている。
エ 今後の社員教育について
障害者の社員教育を手探りで行い、実績も積み重ねてきたが、現在はそのノウ
ハウについて体系立てられていない。今後は、組織的に実績を引き継ぐことが
できるよう、障害者の社員教育を担当する専門のセクションを社内に設置する
とともに、他社が障害者雇用を実施する際の参考となるよう積極的に公開して
いく予定である。
- 障害者の配属先及び仕事内容
○管理部販売管理チーム
Aさん(男性27歳 勤続6年3箇月)
・送り状作成
・全国障害者技能競技大会 パソコン操作の部銀賞
○製造部製造チーム
Bさん(男性48歳 勤続7年8箇月)
・製造指示書作成
Cさん(男性29歳 勤続6年1箇月)
・シール印字チェック、シーラー機操作、検品、新人指導
Dさん(男性30歳 勤続2年7箇月)
・箱組立、検品、実習生指導
Eさん(女性19歳 勤続1年3箇月)
・袋詰め、シール貼り
○製造部仕入・倉庫チーム
Fさん(男性33歳 勤続15年3箇月)
・倉庫作業全般、新人指導
・普通自動車運転免許取得済
Gさん(男性33歳 勤続12年3箇月)
・原料計算、原材料在庫確認
Hさん(男性38歳 勤続3年4箇月)
・荷受、出荷
Iさん(男性26歳 勤続2年4箇月)
・荷受、仕分作業
・普通自動車運転免許取得中
- 調査内容
ア 委員長あいさつ
イ 調査箇所側あいさつ
ウ 調査箇所側より概要説明
エ 社内視察
オ 質疑応答
質 疑 9人の障害者雇用の従業員は、勤続年数も違うが、給料体系はどの
ようになっているか。
応 答 彼らがどの程度の仕事ができるかを入社時に判断し、予定給料額を
決めている。彼らが成功すれば給料を上げていく。一番上で、月
15万円、一番安い方で月5万円くらいである。
質 疑 障害には、知的、精神、身体などいろいろ区分があるが、今後の採
用等をどのように考えているか。
応 答 知的障害者、中でも自閉症の方の指導について実績があると自負し
ているので、そのような方を積極的に受け入れたい。過去に11名同
時に働いていたことがあるが、20名まで受け入れたいと考えている
。右も左も分からない子がいて大変であるが、仕事を進めていく中
で彼らの特性を少しずつ見付けていきたい。
質 疑 教育方法については、ずっと手探りで行ってきたのか、あるいは指
導員等を呼んだことがあるのか。
応 答 指導員等に入ってもらったことはない。仕事の実習を入社前にして
もらっている。
質 疑 養護学校との連携も大切と思うが、どのような連携をしているのか
。また、指導する際にどのようなことを特に配慮しているか。
応 答 平塚養護学校の卒業生を受け入れたときは、先生に月に1回見に来
てもらった。また、何か問題があればすぐ電話してくださいと声を
掛けてくれるなど、気に掛けてもらった。指導上配慮していること
は、良いところを伸ばすということである。やっている仕事がうま
くいかなくなったときに別の仕事を与えて、それがうまくいくと彼
らの勇気になる。そのようにして適性を見付けていく。一定の部署
に留めるのではなく、えいぶるさんの可能性を見いだすことに配慮
している。
- 調査結果
今回調査を行った龍屋物産(株)における障害者雇用の取組の特徴的な点は次のとおりであった。
ア 知的障害者、特に自閉症の者の採用を積極的に行い、仕事のみならず生活面でも助
言する社員教育により、自立した生活を送られるようにするだけでなく、健常者と
同様、あるいはそれ以上の仕事をこなすまでに成長させている。
イ 自閉症を有する社員に対する教育について長年の実績があり、今後も受入れを拡大
していく方針である。
ウ 養護学校、障害者施設及び家族との連携を密にするため、連絡ノートや保護者参観
日の設定など、独自の取組を行っている。
エ これまでの実績を社内で引き継ぐため、今後、専門セクションを設置するとともに
、他社に積極的に公開する予定である。
障害者雇用を積極的に進める龍屋物産(株)を調査したことにより、本県における労働福祉対策を検討する上での参考になった。
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