■はじめに

 質問に入ります前に、一言、申し上げます。
 去る6月8日、秋葉原の歩行者天国において7人の方が亡くなり、10人の方が負傷される通り魔殺傷事件が発生いたしました。憎むべき犯罪の犠牲になられた方々に哀悼の意を捧げるとともに、負傷された方々の一日も早いご回復をお祈りいたします。
 また、6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震は死者・行方不明者合わせて22名という大災害になりました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、いまだ行方不明となっている方々の一刻も早い発見を願うものであります。
 このような、凄惨な事件や大災害は、私たちの気持ちを暗くさせます。さらには空前の原油高等による物価上昇や景気の落ち込み、少子高齢化がもたらす医療や社会保障制度に対する不安などが、重苦しい波動となって世間を覆い、マスコミや識者の論調もどんどん悲観的になっていきます。
 そんな風潮に警鐘を鳴らす論文がありました。昭和48年、ギリシャ哲学の権威、田中美知太郎が産経新聞に寄せた『また暗い予言者の時代』と題された評論であります。昭和48年といえば、オイルショックや公害病などで、日本の高度経済成長にもかげりが見えてきた頃であります。田中氏はその中で、未来に対し「暗い情報がいっぱいで、人びとが神経質になっているときには、冷静な議論はむしろ激しく反発され」ること、そして「わたしたちは今日もはやヒステリックにではなく、もっと冷静に問題をとらえ、その危機を取り除く方途についても、実際的に考えることができるようになった」と述べ、「嬉々として暗い未来を語る」予言者すなわち当時の文化人を戒めています。自動車の警笛もやたらと鳴らせば騒音となり、かえって警笛の役目を果たさない、という喩えは、後に質問をさせていただく地球温暖化問題などにも通じる示唆であると思います。そして、この論文は「暗い予言者を落胆させる政治こそ求められねばならぬ。」という文章で結ばれています。もって肝に銘ずべし、と思うところであります。