<海外県政調査の報告>調査の記録

13.下水汚泥から電気をつくる。

Abwasserzweckverband Heidelberg
Mittelgewannweg 2, 69123 Heidelberg
Tel:06221/417445
Mr.Manuel Oehlke

黒い玉葱の中は....。
看板にあるKlärとは英語のClearと同義。なるほど
 日本でも、下水汚泥によるバイオガス発電が普及しつつある。私たちの身近なところでは、発酵(消化)タンクが「ゴジラの卵」なるニックネームを冠された、横浜市北部汚泥処理センターがある。1988年に建設されたこの施設は、ドイツの技術を導入したものだ。

 ハイデルベルク市のAbwasserzweckverband Heidelberg(ハイデルベルク廃水処理連盟)は、1977年に設立された。ハイデルベルク市、Dossenheim(ドーセンハイム)市、Neckargemünd(ネッカーゲミュント)市、Eppelheim(エッペルハイム)市の4都市を合わせた36万人分の汚水を処理している。エリア内に張り巡らされたダクトシステムは250mm径から2.6mもしくは4.6m径まで合わせて、総延長550kmにもおよぶ。
バイオガス発電設備は南側の工場にある
 今日は、エンジニアのManuel Oehlke氏に、説明と案内をしてもらう。この施設は、ネッカー川の北側、南側に分かれているが、私たちは南側で調査・見学を行なう。大規模なバイオガス発電施設の象徴でもある卵型(というより、ここのは黒い玉葱型)の発酵(消化)タンクも、こちら、南側にある。
 ネッカー川をはさんで北側の、多くの沈積槽の並ぶ施設で、下水を受け入れ、浄化する。1982年に全面完成した浄化設備は、汚水から有機リンと窒素を除去し、ネッカー川排水路に流しているのだが、浄化の過程で水分を含んだ汚泥(Sludge=ヘドロ)が大量に発生する。このヘドロは、ネッカー川対岸の南側にある施設にパイプで送られる。
 処理の基本的な仕組みは、ボーデン湖畔のエコファームで見た、家畜の糞尿を発酵させることで得たバイオガスから電気を起こす「コジェネレーションシステム」と似ている。

巨大な黒い玉葱型の発酵タンク
 汚水処理の工程で発生した汚泥の中の有機物は、高圧で濃縮された後、37°Cの嫌気性環境下でバクテリアにより分解される。それにより、汚泥は、量の減少と質の安定が図られるのだそうだ。
 この過程が「消化」で、その間に発生するバイオガスを「消化ガス」と呼んでいる。このガスは、メタンを多く含み可燃性であるため、ボイラー燃料として用いるのが一般的だ。その熱で、嫌気性バクテリアを活性化するために発酵(消化)タンクを暖めたりするのだが、それで消費されるガスは、普通、発生量の半分にも満たないのだという。
 そこで、Abwasserzweckverband Heidelbergでは、創設以来、余剰ガスを使って発電を続けてきた。今でこそ、この方法は世界の常識となっているが、当時としては画期的だったに違いない。

施設内を視察しながら説明を受ける
 しかし、それぞれ2,500m³の容積を持つ3つの発酵(消化)タンクは、1960年代に建設された(Abwasserzweckverband Heidelbergの前身の)施設の遺物であり、ヘドロを十分に安定化、ガス化することが難しくなっていた。
 そこで、2年前にマイクロフィルターを使った新しいプラントを、既存のシステムに合体させた。これにより、汚水ヘドロの量が減少するだけではなく、ヘドロ中のアンモニアや窒素も、より除去されるようになった。その一方で、アンモニア由来の肥料も生み出され、汚水ヘドロの分解率も大きく向上した。
 消化ガスは脱硫して熱源となり、脱水された固形物はゴミ処理場の蓋(覆土)や肥料、燃料として利用されるが、有害物質の除去にコストがかかってしまうため、実際には100%、ケルンの火力発電所の燃料となっている。乾燥した固形物は、1年間で約30,000トンに達するという。また、バイオガスによる発電では、施設内の電気をまかなうほか、ハイデルベルク市にも売電している。ただ、その量はハイデルベルク市全体の使用量の1%以下に過ぎないという。発酵〜発電のプロセスでも、水が発生するが、とてもきれいなもので、そのままネッカー川に流し込んでいる。