<海外県政調査の報告>調査の記録

9.バイオガスは一石三鳥。


所見6
循環型農・畜産業の確立を
 わが国の畜産廃棄物(家畜糞尿など)の発生量は年間約1億トン。廃棄物全体の約2割に相当する。畜産廃棄物は一部が肥料などに用いられるほかは野積みされ、不法投棄されるものも少なくない。また、地中に埋めたりすると、糞尿から発生した硝酸性窒素が地下水に混入、人間の体内に入ると、血液中のヘモグロビンと結合し、酸素供給を阻害する症状を引き起こす。
 また、野積みされた廃棄物が好気的細菌で酸化分解されると、炭酸ガスが発生する。一方、廃棄物の内部では酸素の欠乏で嫌気性細菌によるメタン発酵が起こり、メタンや二酸化炭素(CO2)が生成する。これらのガスは大気中に放散し、地球温暖化を促進することになる。

 このように、家畜排泄物の放置は悪臭をまき散らすにとどまらず、健康や地球環境にも悪影響を与える。また有機物である排泄物を資源として再利用する点からも、対策が急がれていた。そこで1999年に家畜排泄物法が施行され、畜産業者に対し適正な処理や再資源化の実施が義務付けられた。野積みは2004年度以降、禁止された。
(参考ならびに引用文献:『シリーズ 天然ガス新世紀 未利用エネルギー(12) 天然ガス利用技術(26) 2001年10月31日号』)

 環境省では、脱温暖化社会の構築を目指し、平成17年度の重点施策に「地域連携や公共的施設等の活用による再生可能エネルギー等の積極的導入」を挙げている。そこでは、燃料電池コジェネレーションシステムの普及促進のため、小中高等学校向けに燃料電池コジェネレーションシステムを試験的に導入する自治体への支援を行なうほか、風力やバイオマスなどの再生可能エネルギーを集中的に導入する地域を「再生可能エネルギー高度導入地域」として認定・支援することにより、地域の先進的な取り組みを全国に普及させるとしている。そこには、家畜糞尿を発酵させて得られる消化ガスによる発電は明記されていないが、経済産業省の平成16年度「バイオマス等未活用エネルギー事業調査」では、栃木県をはじめ2〜3の事業が採択されている。
 国の取り組みは、まだ始まったばかりである。そのまま放置をすれば環境悪化の原因となる家畜糞尿を、エネルギー資源として活用するだけでなく、その過程で優れた肥料まで生み出すバイオガス技術。今後、県としても県内自治体や農業団体、土地改良事業団体などが導入を検討しやすいよう研究を進めていくことが、循環型農・畜産業を確立する第一歩である。