<海外県政調査の報告>調査の記録

5.爆走LRT。


所見4
交通が、まちを変える
 LRTといえば、カールスルーエとは目と鼻の先、フランスのストラスブールが有名だが、30年ぶりにトラムを復活させようとする市当局に対し、ほとんどの市民は反対をしていたという。車を市街地から締め出すことで、街が寂れると考えていたのだ。市当局は、市民との500回にも及ぶ協議の末、ようやくコンセンサスを得ることができた。自動車から公共交通機関と歩行者、自転車への転換を成し遂げたストラスブールは、「人間が主役の都市」というイメージを獲得し、1962年(この年にトラムが廃止された!)からEU議会が置かれていたアルザスの小都市は、たちまちブランド化した。国立高等行政学院など多くの教育機関や国際機関がこの地に移され、知識産業に従事する優秀な人材が集結するとともに、雇用も拡大した。地価は上昇し、目抜き通りには名だたるブランドのショップが並んでいる。

 LRTは、単になつかしい路面電車の復活、ということではない。街を再生させる新しいシステムなのだ。今日、日本においても、経済、環境、教育、福祉、防災など、さまざまな観点から、まちづくりの大転換が求められている。しかし、それは交通の革新抜きに成し得るものではない。神奈川県では一昨年、65歳以上の人の割合が15%を超え、本格的な高齢社会に突入した。2015年には、65歳以上の高齢者が4.3人に1人になるという予想である。県は、“2015年のあるべき県土の姿”として「障害のある人や高齢者など、だれもが自由に移動し、積極的に社会参加できるようになっています」と定めている。しかし、「だれもが自由に移動し、積極的に社会参加」するための「交通」については、重点が置かれていない。どこが事業者になるにせよ、県内の都市交通、都市間交通は、県が市町村とともに取り組むべき重要課題である。そして、近未来の交通システムを考えるとき、LRTは環境面や事業費用面で有力な選択肢になりうるだろう。大きな可能性を秘めた選択肢として、LRTはもっとアピールされていいのではないか。