<海外県政調査の報告>調査の記録

10.環境税のメリットは何か。(1)

Dr. Walter Witzel, MdL
Haslacher Str. 61, 79115 Freiburg
Tel. 0761/7 11 54  Fax. 0761/7 11 59

10月21日(木)
「緑の党」の環境政策担当
市街地を流れるドライザム川
 昨日はSWEG(南西ドイツ交通株式会社)で、環境税に対する厳しい意見を聞いた。翻って本日は、環境税導入の旗振り役を果たした「緑の党」(Die Grünen)の議員に、新税の意義などについて聴取する。バーデン・ヴュルテンベルク州議会議員、Dr.Walter Witzelをフライブルク市の事務所に訪ねた。
 フライブルクはシュヴァルツヴァルト(黒い森)の南部に位置する、人口20万人ほどの都市。フランス、スイスの国境は目と鼻の先だ。
 市街地の南側を流れるドライザム川に沿って、市の中心部に入る。川の水は澄んでいて、川岸には木々が茂り、木立を縫うようにサイクリングロードが走っている。

フライブルク市街に入って行く
事務所は閑静な住宅街の中にある
 フライブルクにせよ、カールスルーエにせよ、明日訪れるハイデルベルクにせよ、日本の基準で見れば、人口十何万とか二十何万とかの地方都市が、ドイツではキリッと“立って”いるのである。ドイツでは「地方分権」という言葉がない、と聞いたことがある。中央集権がなければ、地方分権という概念も生まれない。ひとつひとつの都市が、“一国一城”なのだ。

 フライブルクは、「キリスト教世界で最も美しい塔」をもつ大聖堂で知られるが、1457年創立という歴史を誇る「フライブルク総合大学」も、レベルの高い医学部や法学部、森林や環境に関する専門学部などが、世界各国から優秀な学生を集めている。また、「フライブルク音楽大学」も世界的に評価が高く、日本からの留学生も多く学んでいるという。そして、なにより最近では、さまざまな環境政策を成功させた町として、世界中にその名を馳せているところである。

 Witzel氏は1992年から州議会議員を務め、経済・エネルギー・環境の専門家として活動を続けてきた。連立与党の一角を占める「緑の党」の環境政策担当として、環境税導入にも主導的な役割を果たしている。話を聞こう。

Dr.Walter Witzel
「環境税は、言うまでもなく環境保全のための税金として創設しました。エネルギー消費に対して税金をかけて使用を抑制する一方、その税収を、国民生活の安全・安心を図るコストにこれを振り分ける。年金、医療、介護にかかる負担を軽くして、人間生活を豊かにするということが大目的です。1999年4月1日に施行以来、4回に分けて税額を上げてきました。すぐに、自動車を経済的に使うという効果が現れました。税金は、医療保険と年金保険の財源に回されました。保険料が下がれば、企業の負担も軽くなります。そうなれば、失業率の改善も期待できるのです。

 1999年当時、ガソリン1リットルあたり3セント(DM=ドイツマルク)だった税額は、現在2セント(EUR=ユーロ)になっています。ドイツマルクに換算すれば4セントです。年間の税収でみると、1999年が84億DM=42億EUR、2003年予測211億DM=105.5億EURとなっている。それで、年金保険料が約2%安くなったのです。

Dr.Witzelの確信に満ちた説明に聞き入る

 一般的にドイツ人は65歳まで働きますが、実際には60歳ぐらいでリタイアする人も多い。年金は、最後の3年間の平均収入の64%が支給されます。年金を何で支えるか。環境税に問題がないとは言わないが、これを導入しなかったら、年金は破綻していました。税収の9割以上は年金財源に充てている。残りをソーラーエネルギーなど、代替エネルギーの促進に使っています。
 環境税が、環境のためというより年金協力税になっているという批判が出るのは、このためでしょう。風力発電などは、また別の法律で促進しています。

Witzel博士は雄弁だった
  環境税を導入するに当たって、もちろん批判はありました。連立与党内で、譲り合った部分もあります。
 たとえば、石炭エネルギーは環境税の対象外となっているが、これは、ルール工業地帯からの声を重視した結果です。石炭は今でさえ高い。ここでさらに価格を上げれば、チェコやルーマニアからの安い石炭に流れる恐れがある。そうなったら、ドイツの石炭産業は壊滅的打撃を受けてしまいます。 日本もかつてそうだったように、ドイツでもいまだに国が買い取って保護しているのです。
 もちろん、鉄鋼を作るために石炭は不可欠で代替が利かないということもありましたが、政治的な意味合いを言えば、ルール地方は連立相手であるSPD(ドイツ社会民主党)の地盤だから、そういう判断になった。ジェット燃料のケロシンも無税ですが、ドイツ一国で決められることではありません。