「街を歩く、人と会う、現場に立つ。」

 私の勤めていた出版社(注)は、「新しい情報を、かつてないスタイルで伝える」ことをモットーとしていました。
 ファッションひとつとっても、テレビや新聞が、すでに流行っていることを報じることが多いのに対し、雑誌は、これから流行りそうなことをいち早く読者に伝える使命があります。しかし、この、流行の兆しを見つけることが意外と難しい。
 パリコレに登場したから、仕掛人がこう言ったからこれが流行る、と言い切れれば簡単なのですが、実際は原宿の小さなお店で静かに売れ続けていたり、芸能人が密かに身に付けていたりすることが発火点になることが多いのです。

 雑誌編集者は、そういう小さいけれど確かな「種火」を、街を歩き、聞き込みをしながら探します。これは、というものを見つけ出せたら、そこに油を注ぎ空気を送る。うまく大きな炎になれば、まさに雑誌屋冥利に尽きるというものです。

 一方、政治家も常に市民生活に目を配り、人々が何に悩み、何を欲しているかを見定め、手を打たなければなりません。
 大衆社会を凝視し続けるという点では、雑誌作りと一脈通じるところがあると、私は思っています。


(株)マガジンハウス。旧社名・平凡出版(株)。1945(昭和20)年創業。
 敗戦により打ち沈んだ日本人の心に明かりを灯したいと大衆娯楽誌『平凡』を発刊。その後、『週刊平凡』『平凡パンチ』を創刊。
 現在では、『アンアン』『クロワッサン』『オリーブ』『ハナコ』『ギンザ』などの女性誌、『ポパイ』『ブルータス』『リラックス』『ターザン』『ダカーポ』などの男性&ユニセックス誌を発行。それまで日本にはなかったスタイルの雑誌を創刊し続けることで、出版界をリードしてきた。
 単行本では、昨年は『世界がもし100人の村だったら』、今年は『ベラベラブック2』などがベストセラーとなっている。