この9月定例会に、知事は神奈川県景観条例を提出されました。振り返りますと、平成16年2月定例会で、私は、議員となって初めての一般質問において、神奈川の景観形成施策について言及をさせていただきました。その後、同年9月定例会で知事は景観条例の制定を明言され、2年後の今、満を持しての条例案提出となったわけであります。
私は、まず、この景観条例についての質問から始めたいと思います。本県の条例は、国の定めた景観法を後ろ盾に制定されるものと承知をしております。しかし、この景観法は、都市計画法や建築基準法など、まちづくりについて従前より定められている法律のすき間を埋めるような法律で、必ずしも従来の法律に対し優位に立てるというものではありません。景色など二の次という我が国のまちづくりを改めることは容易ではないのです。
これまで自負と自信をもって土木・建設の現場を担ってきた行政当局や事業者にしてみれば、景観という要素が急に表舞台に出てきたことに戸惑いや不安もあったと思います。実際、条例の骨子素案をめぐる県土整備部の庁内調整会議では、理念条例に具体的な施策を入れる必要があるのか、今までの取り組みで十分ではないか、広域的な景観づくりは県条例がなくてもできるのではないか等さまざまな意見が出たようです。
また、骨子素案の段階では、条例前文があり、そこには神奈川の県土の自然的、歴史的、文化的特色や、経済性・効率性を優先し、無秩序な都市化の進行を許した結果、特色ある景観を破壊してきてしまったことへの反省などが書き込まれる予定でしたが、最近の神奈川県の条例では前文を書かない方向になっているとのことで見送られました。
それでも、県民にパブリックコメントを求める際には、条例のイメージを言葉にしておきたいという担当部課の思いがあり、骨子案では、条例の「趣旨イメージ」と題されて記載されました。もし、それがなければ、一般県民はこの条例をつくる意味を理解できなかったのではないかと思います。
初めに骨子素案を読んだときには、神奈川の特色に根差した、そして景観づくりに携わるさまざまな立場の県民等に目配りのきいた条例になるものと期待をしておりましたが、条例骨子素案から条例骨子案をつくる過程では、庁内調整や法務部局の意見などにもまれた結果、担当者から、「前回の骨子素案と比べるとすかすかとなって、何となく一歩後退してしまったイメージもある」という言葉が出たように、具体的な記述がそぎ落とされました。
また、骨子修正案には、新たに「都市機能と調和した景観」とか「地域の記憶」といった文言が入りましたが、条例案にはそのようなくだりは見当たりません。条文の用語に限界のあることは一定理解をいたしますが、県民が関心を持ちにくい方向に進んでしまったのは残念です。
条文も全12条と、他の都道府県と比べ格段に少なくなっています。余りに集約され過ぎたせいか、景観条例検討委員会に参加する有識者からも、「条例案はちょっと読んだだけでは内容がわかりづらい」と指摘を受けたようですが、私も同感です。ほかにも、「どこが神奈川県の条例なのかイメージしづらい」、「前文の内容が当然、条例の中に入るものと思っていた」、「趣旨イメージを目的とか理念のところに盛り込み、この条例により神奈川県がどういうスタンスで景観に取り組んでいくのか、もう少し踏み込んで、その姿勢を示していく必要がある」といった意見も寄せられたと聞いています。
条例を制定しているすべての都道府県を調べたわけではありませんが、東京都を初め、愛知県、滋賀県、岐阜県、北海道などでは、前文を設け、条例の理念をうたっています。本条例はあくまで理念条例であるという説明を受けていますが、なればこそ、県民の方々に、神奈川県の景観形成に対する理念を、わかりやすく、イメージしやすい形で伝えることが重要であると考えます。
県では、本条例に基づき、本年度内に景観づくりの基本方針を策定予定と聞いております。その土台となるであろう「神奈川県の美しい県土づくりに向けて(たたき台)」を読みましたが、さきほどの趣旨イメージや、検討委員会で指摘された要素も盛り込まれた力作になっています。しかし、この基本方針は議決案件ではありません。条例は骨だけにしておいて、肝心な中身については、審議会での検討も議会の議決も必要ない、庁内調整会議ですべて決められる「基本方針」にお任せというのは、この間の庁内論議の推移を伺う限り、不安を覚えざるを得ません。
そこで、知事にお伺いをいたします。
本県の条例案には、本県固有の自然的、歴史的、文化的特性に係る記述も、現状への評価もありません。条例の前文で、神奈川ならではの景観への認識を示すなど、広く県民が理念を共有できる条例にすることが必要と考えますが、知事のご所見をお聞かせください。
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